本記事ではマウスの性能の各仕様について説明します。
これらの仕様がマウスの良し悪しや購入選定の判断に使えるかは微妙ですが、
その値が何のことを指しているのか理解していただけたら幸いです。
目次
- 感度:DPI/CPI (Dot Per Inch / Count Per Inch)
- ポーリングレート / リポートレート:Hz
- 最大速度:IPS (Inch Per Second)
- 加速度:G
- LoD (Lift-off Distance)
- 遅延
- データパス
- フレームレート(センサー)
まず、マウスの仕様表に書かれていることについて考えていきます。
感度:DPI/CPI (Dot Per Inch / Count Per Inch)
代表値 400DPI / 800DPI / 1600DPI / 3200DPI / 6400DPI …
端的に言えば解像度・分解能です。
マウスを動かしたときに、トラッキングしている表面の1インチ(25.4mm)をどれくらいの細かさに分割するか、という意味です。
マウスパッド表面のカウント数のイメージ図
(3.175mm四方で切り出し)
例えば、1600DPIであれば、
25.4[mm] ÷ 1600[DPI] = 0.015875[mm] ≒ 0.016[mm]
つまり、マウスが0.016mm動かされれば1カウントとなります。
また、一定距離をゆっくり動かしたときに対して速く動かしたときにカウント数が少なくなることをネガティブアクセル(ネガティブアクセラレーション)と呼びます。
「分解能が細かいほうが精度が上がりそう」と考えてしまいがちですが、各マウスに搭載されているセンサーによって特性が異なるため、DPIが高ければ高い方が良いとは一概には言えません。
そして、このDPI値だけでは振り向き距離(視点を180度/360度動かすために必要なマウスの移動距離)を出すことができず、
ゲーム内での倍率(いわゆるゲーム内感度)とカウントを視点移動角度に変換する係数によって決まります。
ポーリングレート / リポートレート:Hz
代表値 125Hz / 500Hz / 1000Hz
これは簡単に言うとマウスがPCに情報を送る周波数(≒頻度)です。
(実際にはPCがマウスに対して情報を送るように命令を出している周波数)
1000Hzというのは1秒間に1000回の頻度ということを意味します。
頻度が高ければ高いほど、ポーリングレート由来の遅延が少ないことを意味します。
(マウスの遅延の原因はポーリングレートだけではありません。)
日常的でわかりやすいものとしてニュースを使って例えると、
低いポーリングレートは新聞の朝刊だけ購読して得るニュース、
高いポーリングレートは5分更新のWebニュースサイト
といった感覚です。
新聞の場合には毎朝1回だけですが、まとめて多くの情報を得られます。
しかし、その日起こった出来事も、翌日にならないと知ることができません。
一方で、この例でのWebのニュースサイトでは5分ごとに更新されているので、少ない遅延で情報を得られます。
何かの行動(クリックやカーソル移動など)ごとの遅延は毎回一定ではありません。
ポーリングレートの周期の中で周期の終わりと始まりにどちらに近いかによって変わってしまいます。
計算としては、周波数と周期の関係で、周期がポーリングレート起因の最大の起こりうる遅延の大きさになります。
ポーリングレートが1000Hzであれば
1[秒] ÷ 1000[回] = 0.001[秒] ≒ 1[ミリ秒]
ポーリングレート1000Hzの場合、ポーリングレート起因の遅延成分は「<1ミリ秒」ということです。
最大速度:IPS (Inch Per Second)
代表値 150IPS / 250IPS / 400IPS
センサーがトラッキングできる最大の速度です。
インチが使われているので少々わかりにくいですが、1秒間に何インチ動かしてもトラッキングできますよ、という数値になります。
もっと身近なメートル毎秒に換算するにはインチをメートルに換算するだけです。
インチは39.37で割ればメートルに換算できるので、400IPSは10.16[m/s]となります。
最大トラッキング速度が400IPSのマウスであれば10.16[m/s]までトラッキングできるわけです。
80IPSのマウスでは、マウスパッドの幅が40cmとした場合、端から端までの移動が0.2秒以上であればトラッキングできるということと言い換えられます。
80[IPS] ≒ 2.032[m/s] ≒ 203[cm/s]
40[cm] ÷ 203[cm/s]= 0.197[秒] ≒ 0.2[秒]
加速度:G
代表値 16G / 20G / 30G / 40G
マウスアクセラレーション・カーソル加速とは全く別で、マウスを動かしたときのセンサーの性能を表しています。
このGは簡単に言えば数値が大きいほど急速なスピード変化に対応できるということを意味します。
この単位は重力加速度9.80665[m/s²]を基としていて、
1.0G = 9.80665[m/s²]
となります。
40Gのマウスは40×9.80665=392.266[m/s²]の加速度に対応できることを意味します。
加速度は移動速度の変化率になります。
これは最大速度[IPS]と組み合わせることで、一定の加速度で最高速度まで達するときに最低限必要な時間が導き出せます。
最大トラッキング速度:400IPS ≒ 10.16[m/s]
最大加速度:40G = 392.266[m/s²]
を例に考えます。
計算は次の画像の通りです。
この計算から、等加速度で400IPSになるまでの時間が26ms以上であれば、
トラッキングできると考えることができます。
わかりやすいように、各センサーの仕様から、対応できる速度とその加速の立ち上がりをグラフにしました。
(スペックシートからなので理論値です。)
この線の右下に収まっていれば正常にトラッキングできることをメーカーが謳っていることになります。
筆者が思いっきりマウスを振った時のデータをグレーの線で追加してみました。
LoD (Lift-off Distance)
マウスを持ち上げたときにセンサーが反応しなくなるトラッキング面との距離です。
LoDはトラッキング面の模様や反射などとの相性で変動することがあります。
そのため、余裕を持たせた2~3mmに設定されていることが多いです。
マウスを持ち上げたり下ろしたりする際の動作でのブレや
マウスを持ち上げて動かしたときに反応してしまう原因となるため、
LoDは少ないほうが理想的とされています。
SteelSeriesのRival 600というマウスでは、このLoDを低く設定するためにマウスのセンサーとは別で深度センサーを搭載し、0.5mmを実現しています。
ここまでの内容が、よく見かけるスペックだと思います。
ここからはスペックシートには記載されていない、比較的マニアックな性能の部分について説明します。
遅延
ポーリングレートの項で説明した遅延とは別で、マウスセンサーの内部処理によるものと、マウス内部のMCU(コンピューターIC)の処理によるものなど原因はさまざまです。
クリックの遅延とセンサーの遅延は同一値とは限らないため注意が必要です。
データパス
マウスから送られてくるデータ(レポート)の扱える数字の範囲です。
例えば16000DPI、ポーリングレートが1000Hzで1秒間で1インチを動かしたとき、大体ですが16000カウントが1000分割で1msごとに送られてきます。
1回のレポートで160が送られてくるので、符号付8bit(-128~127が扱える)ではカウント数が飽和します。(ネガティブアクセルの原因の一つ)
しかし、近年のほとんどのゲーミングマウスでは符号付16bit(-32768~32767)のため、ほぼ気にする必要はなくなりました。
フレームレート(センサー)
マウスのセンサーは解像度の低いハイスピードカメラのようなもので、トラッキング面を高速で撮影し、移動を検出しています。
マウスとPCの間はポーリングレートの125~1000Hzくらいでデータ転送をしていますが、マウスのセンサーはその数倍以上で撮影しています。
PixArt社のOptical Mouse Sensorのページにフレームレートの値が記載されています。
PMW3360/PMW3389で12,000fpsとありますが、実際には常時変動していて最大値が12,000fpsとなります。
このフレームレートが高ければマウスを速く動かしたときの精度は上がりますが、ゆっくり動かしたときに精度がかなり落ちます。
そのため、最近のマウスセンサーでは動かす速度に合わせてフレームレートを常に変動させています。
この辺の説明はかなり長くなるため、別の記事にて解説します。